地積規模の大きな宅地が使えない|生産緑地が混ざる畑の評価単位
【この記事でわかること】
- 固定資産税は数千円と数十万円——同じ畑なのに税額が違った理由
- 生産緑地と一般の市街化区域農地は「評価単位」が別、という税務上の決まり
- 合計650㎡でも「350㎡+300㎡」——地積規模の大きな宅地が消える仕組み
- 土地評価で路線価や補正率より先に確認すべき、たったひとつのこと
市街地で農地を相続したとき、「地続きの一枚の畑なのだから、まとめて評価されるはず」と考えていませんか。
実は、その畑の一部が生産緑地に指定されている場合、たとえフェンスも境目もない一枚の畑に見えても、税務上は別々の土地として評価することが「決まり」になっています。
この記事では、評価単位のルールを知らなかったために、期待していた評価減が使えなかったご家族の実例をもとに、土地評価で最初に確認すべき「評価単位」の考え方を解説します。
この記事の結論
財産評価基本通達7-2のルールにより、生産緑地は、生産緑地でない農地と区分して評価すると定められています。地続きで一体利用していても、この2つを一つの評価単位にまとめることはできません。その結果、合計では500㎡以上あるのに、それぞれが500㎡未満となり、「地積規模の大きな宅地」の評価減が使えなくなることがあります。評価額は、電卓を叩く前に——評価単位の判定で——決まってしまうことがあるのです。
1. 「この畑、なんで税金がこんなに違うんですか?」
ご相談にいらしたのは、お父様を亡くされたご姉妹のお二人でした。相続財産の中心は、市街地の一角でお父様が長く続けてこられた畑。図面で見ると、道路に面した一枚の四角い土地です。
資料を確認していた妹さんが、固定資産税の課税明細書を見て、ふと声を上げました。
「あれ? この畑、なんで税金がこんなに違うんですか? こっちは年に数千円なのに、こっちは数十万円……同じ畑ですよね?」
いいところに気づかれました。課税明細をよく見ると、一枚に見えるその畑は、2つに分かれて記載されていたのです。
「手前の350㎡は『生産緑地』の指定を受けています。営農を続ける義務を負う代わりに、固定資産税が農地並みに軽減されている。だから数千円なんです。奥の300㎡は指定を受けていない、いわば普通の市街化区域内の畑。こちらは宅地並みに課税されるので、数十万円になります」
「へえ……固定資産税って、そんな仕組みなんですね」と妹さん。
すると、それまで静かに聞いていたお姉様が、口を開きました。相続税の本を何冊も読み込んで、この日も付箋だらけの資料をお持ちになった、勉強熱心な方です。
2. 「でも先生、相続税の評価は一緒ですよね?」
「固定資産税が違うのは分かりました。でも先生、相続税の評価は一緒ですよね? だって、境目も何もない、地続きの一枚の畑ですし。それに私、調べてきたんです。この畑、全部で650㎡あるので、500㎡以上の土地に使える『地積規模の大きな宅地』の評価減が使えるはずですよね」
正直に申し上げて、ここまで調べてこられる相続人の方は多くありません。地積規模の大きな宅地——三大都市圏で500㎡以上の土地の評価を引き下げられる制度——にたどり着いていたのは、立派の一言です。
柏市・我孫子市・流山市にお住まいの方へ
「三大都市圏で500㎡以上」という要件について、東葛エリアの方はご自身が対象かどうか気になるところだと思います。柏市をはじめとする東葛エリアは、首都圏整備法の近郊整備地帯に含まれており、三大都市圏として500㎡以上が基準になります(三大都市圏以外の地域は1,000㎡以上)。地元では、比較的多くの農地がこの面積基準に届く可能性があります。
だからこそ、次の一言を申し上げるのが、心苦しかった。
「その考えになる方は、多いです。ですが——この畑は、一つでは評価できません」
「……え?」
3. なぜ?——「一体利用」でも、まとめられない決まりがある
前回までの記事で、土地の評価単位は「利用の実態」で判定するとお話ししてきました。一体で使っていれば一つの評価単位、利用を分ければ別々——その原則からすれば、境目なく耕されているこの畑は、一つにまとまりそうに見えます。
ところが、財産評価基本通達には、もう一つのルールがあります。
評価単位を分ける「決まり」——財産評価基本通達7-2(2)
農地の評価単位について、通達はこう定めています。
「田及び畑(以下「農地」という。)は、1枚の農地……を評価単位とする。
ただし、……市街地周辺農地、……市街地農地及び……生産緑地は、それぞれを利用の単位となっている一団の農地を評価単位とする。」
(財産評価基本通達7-2(2) ※読みやすさのため一部省略しています)
ポイントは「それぞれを」という言葉です。市街地農地と生産緑地は、それぞれ別に評価単位を考える——つまり、利用実態が一体かどうか以前に、一つの評価単位にまとめることができないのです。これは判断や解釈の余地がある話ではなく、評価のルールとして最初から決まっていることです。
さらに、通達にはもう一つ、これを裏づける記載があります。地目の違う土地をまとめて評価してよい、という例外規定の中に、こんなカッコ書きがあるのです。
「……40((市街地農地の評価))の本文の定めにより評価する市街地農地(40-3((生産緑地の評価))に定める生産緑地を除く。)、……のいずれか2以上の地目の土地が隣接しており、……これらを一団として評価することが合理的と認められる場合には、その一団の土地ごとに評価するものとする。」
(財産評価基本通達7 土地の評価上の区分)
「隣り合う土地をまとめて評価してよい」という規定から、生産緑地だけが名指しで除外されているのです。まとめられないことが、二重に念押しされていると言えます。
「地続きでも、ですか」とお姉様。
「地続きでも、です。一枚の畑に見えても、税務上は手前の350㎡と奥の300㎡、2つの土地として、それぞれ別々に評価します」
4. 【図解】650㎡の畑が、「350㎡」と「300㎡」になる瞬間
【評価区分が違えば、一つでは評価できない】
境目のない一枚の畑でも、生産緑地とそれ以外の農地は別々の評価単位になります
【見た目】地続きの一枚の畑(合計650㎡)
✕ 「650㎡のひとつの土地」としては評価できない
理由:生産緑地と一般農地は評価上の区分が違う
(通達7-2(2)で「それぞれを」評価単位とすると定められている)
▼
【税務上】2つの土地として、別々に評価
生産緑地 350㎡
350㎡の土地として評価
500㎡未満 → 地積規模 ✕
一般の畑 300㎡
300㎡の土地として評価
500㎡未満 → 地積規模 ✕
⚠️ ポイント
評価単位を決めるのは利用実態だけではありません。「評価上の区分」が違えば、一体利用でも一つにはならないのです。
※合計では650㎡(500㎡以上)ですが、評価単位が350㎡と300㎡に分かれるため、どちらも「地積規模の大きな宅地」(三大都市圏500㎡以上)の面積要件を満たしません。
※「地積規模の大きな宅地」には面積のほかにも要件があります(路線価地域では普通商業・併用住宅地区または普通住宅地区に所在すること、市街化調整区域・工業専用地域・指定容積率400%(東京23区は300%)以上の地域でないこと等)。面積を満たしても対象外となる場合があります。
※市街化区域内の農地は宅地に比準した方式(造成費控除等)で評価するため、実際の評価額の計算は個別の確認が必要です。
お姉様が期待されていたのは、650㎡全体への「地積規模の大きな宅地」でした。しかし評価単位が分かれた瞬間、350㎡と300㎡——どちらも500㎡に届かず、この特例の入口は、両方とも閉じました。
この結論を変える手段は、ありません。生産緑地の指定はお父様の代からのもので、相続の時点で事実として確定しています。分け方の工夫でどうにかなった前回までの話と違い、今回は、知ったときにはもう決まっていたのです。
5. 「勉強していたのに……」
しばらくの沈黙のあと、お姉様が小さくおっしゃいました。
「私、勉強していたのに……。特例の名前も、要件も、ちゃんと調べたのに」
私は、はっきり申し上げました。
「間違っていたわけではありません。評価単位のルールを、最後まで知らなかっただけです」
お姉様の調べた内容は、すべて正しかった。地積規模の大きな宅地の要件も、500㎡という数字も、減額率も。ただ一つ、その手前にある「何を一つの土地として評価するのか」というルールだけが、どの入門書にも大きくは書かれていなかったのです。
6. 土地評価は、数字の世界ではなくルールの世界
土地評価を勉強すると、多くの人は路線価や倍率、補正率に目が向きます。数字が並んでいて、計算ができて、答えが出る——そこが「評価」の本体に見えるからです。
しかし、実務で最初に確認するのは、そこではありません。
「何を一つの土地として評価するのか」。
この「評価単位」を間違えると、その後の計算がすべて正しくても、結論だけが間違ってしまいます。路線価を正確に引き、補正率を丁寧に掛けても、土台となる単位がずれていれば、出てくる評価額は別の土地のものなのです。私は、この案件で改めてその怖さを実感しました。
帰り際、お姉様がぽつりとおっしゃいました。
「先生……相続税って、計算より前に、ルールを知ることなんですね」
私は頷きました。
「そうなんです」
評価額は、電卓を叩く前に決まってしまうことがあります。土地評価とは、数字の世界ではありません。ルールの世界です。
7. すでに申告がお済みの方・これから申告する方へ
□ 生産緑地を相続したのに、生産緑地としての減額を使わずに申告した
納めすぎた税金を取り戻せる可能性があります。生産緑地には、通常の農地とは別に、生産緑地であることに応じた減額が定められています。これを見落として通常の農地として評価していた場合、申告期限から5年以内なら「更正の請求」で還付を受けられる可能性があります。詳しくは【関連記事】相続税の更正の請求、期限はいつ?配偶者控除と小規模宅地で違う注意点をご覧ください。
⚠️ 逆に、生産緑地と隣の農地を「一体」として評価し、地積規模の大きな宅地を適用して申告した
評価単位の誤りにより、評価額が過少になっている可能性があります。この場合、税務調査で指摘されれば、追徴課税(過少申告加算税・延滞税等)の対象になり得ます。心当たりのある方は、指摘を受ける前に、申告内容の点検と修正申告の要否をご相談ください。
8. 生産緑地の相続に関するよくあるご質問(FAQ)
- Q. 生産緑地と隣の畑を、まとめて一つの土地として評価できませんか?
-
A. できません。
財産評価基本通達7-2(2)により、市街地農地と生産緑地は「それぞれを」利用の単位となっている一団の農地を評価単位とすると定められています。さらに通達7では、隣接する2以上の地目をまとめて評価してよいとする規定から、生産緑地が明示的に除外されています。地続きで一体利用していても、この決まりが優先されます。 - Q. 別々に評価されるのは、必ず損なのですか?
-
A. 一概には言えませんが、損になるケースは少なくありません。
生産緑地には、生産緑地であることに応じた固有の減額が別途あるため、その部分だけを見れば評価は下がります。一方で、評価単位が分かれることにより「地積規模の大きな宅地」など面積要件のある特例が使えなくなる場合があります。
損得は土地ごとの個別判断ですが、「別々に評価されるのだから有利になるはず」と安易に考えるのは危険です。本記事の実例でも、面積要件を満たせなくなったことによる影響のほうが大きくなりました。なお、生産緑地の減額割合が具体的にどう決まるかについては、別の記事であらためて解説します。 - Q. 生産緑地の指定は500㎡以上ないとできないのでは?
-
A. 条例により300㎡まで引き下げられます。柏市も引き下げています。
原則は500㎡以上ですが、市区町村が条例を定めれば300㎡まで引き下げることができます。柏市も条例を定めており、300㎡以上で指定が可能です(生産緑地法の改正に伴い、2019年3月から適用)。
なお、これは生産緑地の「指定」の要件であり、本記事のテーマである相続税の「評価単位」や「地積規模の大きな宅地」の面積要件とは別の話です。混同しないようご注意ください。 - Q. 自分の畑が生産緑地かどうかは、どうやって確認できますか?
-
A. 固定資産税の課税明細書が最初の手がかりです。
生産緑地は固定資産税が農地並みに軽減されているため、課税明細書で税額が極端に低い区画があれば、生産緑地の可能性があります。市区町村の都市計画図・生産緑地地区の指定図でも確認でき、現地に標識が設置されていることもあります。判断に迷う場合は、課税明細書をお持ちのうえご相談ください。
9. まとめ|路線価より先に、「評価単位」を見る
- 生産緑地と、生産緑地でない農地は、区分して評価することが財産評価基本通達7-2(2)で決められています。地続きの一体利用でも、一つの評価単位にはなりません。
- その結果、合計では500㎡以上あっても、それぞれが500㎡未満となり、「地積規模の大きな宅地」が使えなくなることがあります。
- 生産緑地には固有の減額もありますが、それだけで埋め合わせられるとは限りません。「別々に評価されるのだから有利になるはず」と考えるのは危険です。
- 土地評価で最初に確認すべきは、路線価でも補正率でもなく、「何を一つの土地として評価するのか」=評価単位です。ここを間違えると、以後の計算が全部正しくても、結論だけが間違います。
今回のご姉妹は、誰よりも真剣に勉強されていました。それでも、評価単位のルールだけは、届かなかった。評価額は、電卓を叩く前に決まってしまうことがある——この一点だけでも、持ち帰っていただければと思います。
市街地に農地をお持ちの方・相続予定の方へ
「うちの畑にも生産緑地が混ざっているかもしれない」「地積規模の大きな宅地が使えるか知りたい」「相続した農地の評価が正しいか不安」——こうしたご不安のある方は、早めにご相談ください。固定資産税の課税明細書と土地の図面をご準備いただければ、評価単位の一次判定は初回相談でおおむね確認できます。
柏市・我孫子市・流山市など東葛エリアの農地相続を数多く手がけています。生産緑地の有無と評価単位の判定は、相続税額の土台を決める最初の一歩です。
💡 「評価単位」シリーズ——土地評価は、電卓の前に決まる
第1話 → 地積規模の大きな宅地とは|500㎡超の相続で見落とされる評価減
第2話 → 兄弟の土地、分筆で相続税が750万円増?共有の正解
第3話 → 本記事
関連 → 相続税の更正の請求、期限はいつ?配偶者控除と小規模宅地で違う注意点
次回予告|生産緑地の減額と納税猶予
本記事では「評価単位」に絞ってお話ししました。生産緑地には、これとは別に生産緑地であることに応じた減額があり、その割合は特定生産緑地の指定状況などによって変わります。(参考までに、国土交通省によれば、指定から30年の期限が最初に到来した令和4年時点で、対象の生産緑地の約9割が「特定生産緑地」に移行しています。)また、農地には相続税の納税猶予という大きな制度もあります。これらは次回の記事であらためて解説します。
参考(国税庁・国土交通省・柏市)
・財産評価基本通達 第2章第1節 通則(7 土地の評価上の区分/7-2 評価単位)
・No.4603 宅地の評価単位
・No.4623 農地の評価
・No.4626 生産緑地の評価
・No.4609 地積規模の大きな宅地の評価
・国土交通省 生産緑地制度の概要
・国土交通省 都市局「特定生産緑地指定の手引き」(令和8年4月版)
・柏市 柏市のまちづくり(生産緑地制度)
※本記事の事例は、守秘義務に配慮し特定を避けるため一部変更しています。
※本記事は一般的な制度の解説であり、評価単位の判定・生産緑地の減額割合・各特例の適用可否は、土地の利用状況・指定状況等の個別事情により異なります。実際の判断にあたっては税理士へご確認ください。(2026年8月現在の法令・通達等にもとづく)

