「兄弟姉妹に遺留分がないのはなぜ?請求される心配が要らない法律の理由」
※本記事の事例は、守秘義務に配慮し事実関係の一部を改変・一般化して記載しています。本記事の内容は2026年7月時点の法令に基づきます。
前回の記事で、お子様のいないご夫婦のご相談をご紹介しました。「財産は全部妻にいくはず」という思い込みが崩れ、絶縁状態の弟さんと連絡先も分からない甥御さんたちが相続人になると知った、あのご夫婦です。その相談の終盤、奥様が震える声で口にされた質問が、実はこの記事のテーマそのものでした。——「もし主人が遺言を書いてくれても、あの弟から『遺留分をよこせ』と請求されませんか?」。答えは「されません」。本記事はその続編として、なぜ兄弟姉妹には遺留分がないのかという法律の理由と、あの日ご夫婦にお伝えしたもう一つの対策「生命保険の受取人指定」を、柏市の相続専門税理士が詳しく解説します。
この記事の結論
民法は遺留分を主張できる人を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めており(民法1042条)、兄弟姉妹と、その代襲相続人である甥・姪に遺留分は一切ありません。したがって「全財産を配偶者に相続させる」等の遺言があれば、兄弟姉妹に財産を渡さないことが法的に可能です。さらに受取人を指定した生命保険金は、そもそも遺産分割協議の対象外——遺言と並ぶ、確実な第二の対策になります。
【この記事でわかること】
- 「父の相続では弟に遺留分があったのに、なぜ今回はないのか」——同じ弟なのに結論が逆になる理由
- 遺留分がある人・ない人の一覧と家系図(兄弟姉妹・甥姪は対象外)
- 「兄弟に渡したくない」を叶える方法①:公正証書遺言/方法②:生命保険の受取人指定
- 実際のご相談で見つかった「受取人が亡き親のまま」という落とし穴
- 税理士だから伝えたい注意点:兄弟・甥姪が相続すると相続税は2割加算
1. 「あの弟から、遺留分をよこせと言われませんか?」
まず、前回のご相談を簡単に振り返ります(詳しくは前回の記事をご覧ください)。
お子様のいないご夫婦。ご主人のご両親はすでに他界され、ごきょうだいは、お父様の相続で遺留分を巡って激しく揉めて以来絶縁状態の弟さんと、その争いの仲裁役だった心優しいお姉様——そのお姉様も、数年前に突然亡くなられていました。このままご主人に万が一のことがあれば、奥様は、絶縁状態の義弟と、連絡先も分からないお姉様の息子さん(甥)二人に「実印をください」とお願いして回らなければならない。その解決策として、私は「全財産を妻に相続させる」という公正証書遺言をご提案しました。
説明を真剣に聞いていた奥様が、そこでハッと表情を硬くして、震える声で質問されたのです。
「先生……。お父様の時、弟さんは『遺留分』を請求してきたんですよね。主人が遺言を書いてくれても、また同じように、あの弟から遺留分を請求されることはないんですか?」
お父様の相続で遺留分の争いを目の当たりにした奥様だからこその、切実な質問です。そして、この疑問は決してこのご夫婦だけのものではありません。当事務所でも「遺言を書いても、結局きょうだいに遺留分があるんでしょう?」というご質問は本当によくいただきます。ドラマや親の相続の経験から、「遺留分は誰にでもあるもの」と思い込んでいる方が非常に多いのです。
私は奥様の目を見て、はっきりとお答えしました。
「されません。兄弟姉妹には、遺留分がないんです。お父様の時とは、法律のルールがまったく違います」
なぜ同じ弟さんなのに、父の相続では請求できて、兄の相続では請求できないのか。ここからが、この記事の本題です。
2. 結論:兄弟姉妹に「遺留分」はありません
遺留分(いりゅうぶん)とは、遺言の内容にかかわらず、一定の相続人に法律が保障する「最低限の遺産の取り分」のことです。たとえば「全財産を長男に相続させる」という遺言があっても、他の子どもは遺留分を主張してお金を請求できます。
ただし、この遺留分を主張できる人は、法律で明確に限定されています。
| 相続人 | 遺留分 |
|---|---|
| 配偶者(妻・夫) | あり |
| 子ども(亡くなっていれば孫) | あり |
| 親などの直系尊属 | あり |
| 兄弟姉妹 | なし |
| 甥・姪(兄弟姉妹の代襲相続人) | なし |
民法1042条は、遺留分の権利者を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています。つまり兄弟姉妹は、条文の書き出しの時点で名指しで除外されているのです。そして、兄弟姉妹に遺留分がない以上、その立場を引き継ぐ甥・姪にも遺留分はありません。
家系図で見る「遺留分がある人・ない人」
緑=遺留分あり/赤=遺留分なし(本人=亡くなった方)/二重線=婚姻

ここから導かれる実務上の結論はシンプルです。有効な遺言さえあれば、兄弟姉妹・甥姪には1円も渡さないことが、法的に可能です。遺言の内容に不満があっても、彼らにはそれを覆す権利がそもそも存在しません。
3. なぜ兄弟姉妹だけ遺留分がないのか——3つの理由
奥様の疑問の核心は、「同じ弟なのに、なぜ結論が逆になるのか」でした。答えは、弟さんの"立場"が違うからです。
お父様が亡くなられた時、弟さんは「亡くなった人の子ども」という立場で相続人になりました。子どもには遺留分が強固に保障されています。だから請求できたのです。しかし、ご主人に万が一のことがあった場合、弟さんは「亡くなった人の兄弟」という立場になります。そして法律は、兄弟という立場には遺留分を与えていません。人が同じでも、立場が変われば権利が変わる——これが相続のルールです。
では、なぜ法律は兄弟姉妹にだけ遺留分を認めなかったのでしょうか。背景には、遺留分という制度の目的が関係しています。
理由① 遺留分は「残された家族の生活保障」のための制度だから
遺留分は、亡くなった方に生活を支えられていた配偶者や子どもが、遺言ひとつで生活基盤を失うことを防ぐための制度です。これに対して兄弟姉妹は、通常それぞれが独立して生計を立てており、亡くなった方の財産に生活を依存していることは稀です。保護の必要性が薄い——これが最大の理由です。
理由② 相続順位がもっとも後ろだから
兄弟姉妹が相続人になるのは、子どもも親もいない場合に限られる「第3順位」です。もともと相続への関わりがもっとも遠い立場であるため、遺言による本人の意思を優先させるべきだと考えられています。
理由③ 「自分の財産を誰に遺すか」という本人の自由を尊重するため
遺留分は、故人の「財産を自由に処分する権利」を制限する強い制度です。制限が正当化されるのは生活保障という必要がある場合だけであり、その必要が薄い兄弟姉妹にまで広げるべきではない——法律はそう線を引きました。だからこそ、遺言を書いた人の意思が、兄弟姉妹との関係では100%貫かれるのです。
4. 【要注意】親が健在なら話が変わります
ここで、相続専門の実務家として必ずお伝えしている注意点があります。「兄弟に遺留分がない」というルールが効くのは、兄弟姉妹が相続人になる場合、つまり子どもも親もいないケースです。
もしご両親のどちらかがご健在であれば、相続人は「配偶者と親」になり、親には遺留分があります(相続人が直系尊属のみの場合は遺産の3分の1、配偶者と親の場合は全体の2分の1が遺留分の総枠になります)。「全財産を妻へ」という遺言を書いても、お母様から遺留分を請求される可能性は残る、ということです。
「全財産を妻へ」の遺言に、待ったをかけられる人は?
子どものいないご夫婦で、夫が亡くなった場合の比較
⚠️ 親が健在の場合
相続人:妻 + 母(健在)
母には遺留分あり
遺言があっても、母から
遺留分を請求される可能性が残る
親の他界後は
➡
✅ 親が他界している場合
相続人:妻 + 兄弟姉妹(甥・姪)
兄弟姉妹・甥姪に遺留分なし
遺言に待ったをかけられる人は
ゼロ——妻がすべて受け取れる
※どちらのケースに当たるかで対策の設計が変わります。まずご自身の家族構成の確認から
ご自身のケースで誰に遺留分があるのかは、家族構成によって変わります。遺言を書く前に、まず相続人と遺留分の有無を正確に確認することが、対策の第一歩です。
5. 「兄弟に渡したくない」を叶える方法①:公正証書遺言
兄弟姉妹に財産を渡さないための基本にして最強の対策が、遺言書です。
「私の所有する全財産は、妻〇〇に相続させる」
この遺言があるだけで、①遺産分割協議が不要になり(兄弟や甥姪の実印・印鑑証明が一切不要)、②遺留分のない兄弟姉妹側は法的に何も請求できず、③預金や自宅の名義変更を配偶者だけで進められます。
作成する際は、形式不備の心配がなく家庭裁判所の検認も不要な公正証書遺言を強くお勧めします。遺言がない場合に何が起こるのか——絶縁状態の義弟や連絡先の分からない甥に「実印をください」と頼んで回ることになった実例を含めて、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
▶ 関連記事:子なし夫婦の相続はどうなる?妻だけでは手続きできない理由と遺言の力
6. 方法②:生命保険の受取人指定——遺言と並ぶ「第二の対策」
そしてもう一つ、意外と知られていない強力な対策があります。生命保険の死亡保険金の受取人を、財産を渡したい人に指定しておくことです。
受取人が指定された死亡保険金は、法律上、受取人固有の財産として扱われます。つまり——
- 遺産分割協議の対象になりません。兄弟や甥姪の同意も実印も不要で、受取人が保険会社に請求するだけで受け取れます
- 原則として、遺留分の計算にも含まれません。判例上、死亡保険金は原則として遺留分や特別受益の対象外とされています(他の相続人との間で著しく不公平となる特段の事情がある場合を除きます)
- 現金がすぐ手元に届きます。凍結された預金口座と違い、請求から数日〜1週間程度で支払われるのが一般的で、当面の生活費や葬儀費用に充てられます
- 相続税の非課税枠があります。受取人が相続人の場合、「500万円 × 法定相続人の数」までの死亡保険金は相続税がかかりません
遺言が「財産の行き先を指定する対策」だとすれば、生命保険は「財産の一部を、最初から遺産の外に出しておく対策」です。性質の違う2つの手を組み合わせることで、渡したい人に、確実に、早く、税負担も抑えて財産を届けることができます。
実は、冒頭のご夫婦にも、この確認をお願いしました。後日、ご主人が保険証券を持って再びいらっしゃったのですが、証券の受取人欄を見て、ご主人は絶句されました。
「先生……この保険、独身の頃に入ったきりで、受取人を一度も変更していませんでした。今も亡くなった父のままです」
就職した頃に勧められるまま加入し、結婚しても、ご両親を見送っても、受取人欄のことは一度も思い出さなかった——責められる話ではありません。保険は「入るとき」は真剣に考えても、「入った後」に見直す機会がほとんどないからです。
受取人がすでに亡くなっている場合、保険金の行き先は約款や法律のルールで決まることになり、受取人の相続人(=このケースでは弟さんや甥御さんたちを含む)に分散してしまう可能性すらあります。「妻のために」と払い続けてきた保険が、まったく意図しない形になるところでした。受取人を奥様に変更する手続きは、保険会社への届出だけで完了します。遺言のご相談の際、当事務所が保険証券の受取人欄まで必ず一緒に確認するのは、この落とし穴が実務で本当に多いからです。
7. 税理士からの注意点:兄弟・甥姪が相続すると、相続税は「2割加算」
最後に、逆のケース——「兄弟や甥姪に財産を渡したい」という場合の、税理士ならではの注意点です(独身の方や、お世話になった甥姪に遺したい方は少なくありません)。
相続税には、配偶者および一親等の血族(子・親)以外の人が財産を取得すると、その人の相続税額が2割増しになるルールがあります(相続税額の2割加算)。兄弟姉妹も甥・姪も、この加算の対象です。
さらに、兄弟姉妹が相続人の場合は使える特例が限られる場面も多く、同じ財産でも「誰に渡すか」で税負担は大きく変わります。兄弟や甥姪への遺贈をお考えの場合は、遺言の文言だけでなく、税額のシミュレーションまで含めて設計することをお勧めします。ここは、税理士が遺言のご相談をお受けする最大の意味だと考えています。
8. ご夫婦のその後——「知っただけで、こんなに軽くなるんですね」
あのご夫婦は後日、公正証書遺言を無事に作成されました。お互いに「全財産を配偶者に相続させる」と書き合う、ご夫婦それぞれ1通ずつの遺言です。古い保険の受取人も、奥様に変更を済まされました。
すべての手続きが終わった日、奥様がおっしゃった言葉が印象に残っています。
「お父様の相続の時から、『遺留分』という言葉がずっと怖かったんです。でも、うちの場合はそもそも請求する権利が存在しないと知っただけで、こんなに気持ちが軽くなるんですね」
相続の不安の多くは、「知らないこと」から生まれます。そして遺留分ほど、思い込みと実際のルールの差が大きい制度はありません。過去の相続で遺留分の争いを経験された方ほど、「遺言を書いても無駄だ」と諦めてしまいがちですが、兄弟姉妹が相手なら、遺言はあなたの意思を100%実現します。そこに生命保険という第二の手を重ねれば、備えはさらに確実になります。
9. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 兄弟姉妹に遺留分がないのは、一言でいうとなぜですか?
遺留分が「残された家族の生活保障」のための制度だからです。独立して生計を立てている兄弟姉妹には保護の必要性が薄く、それよりも「自分の財産を誰に遺すか」という本人の意思を優先すべきだと法律が判断しています(民法1042条で遺留分権利者から除外)。
Q2. 甥や姪から遺留分を請求されることはありますか?
ありません。甥・姪は兄弟姉妹の立場を引き継ぐ代襲相続人であり、兄弟姉妹に遺留分がない以上、甥・姪にも遺留分はありません。なお、父母の一方だけが同じ兄弟姉妹(異母兄弟・異父兄弟)も同様で、遺留分はありません。
Q3. 兄弟から「遺留分侵害額請求」をされる可能性はありますか?
ありません。遺留分侵害額請求(2019年の法改正前は「遺留分減殺請求」)は、遺留分を持つ人だけが行使できる権利です。兄弟姉妹・甥姪にはそもそも遺留分がないため、請求そのものが法律上成立しません。内容証明などで請求めいた書面が届いたとしても、応じる法的義務はありません(不安な場合は専門家にご相談ください)。
Q4. 公正証書遺言なら遺留分を請求されない、ということですか?
少し違います。公正証書遺言は「遺言を確実に有効にする」ための形式です。兄弟姉妹から請求されないのは、遺言の形式ではなく「兄弟姉妹に遺留分がない」という法律のルールによるものです。ただし遺言自体が無効になれば元も子もないため、形式不備の心配がない公正証書遺言をお勧めしています。
Q5. 親が生きている場合も、遺言があれば全財産を配偶者に渡せますか?
遺言で「全財産を配偶者へ」と指定することは可能ですが、親には遺留分があるため、親から遺留分を請求される可能性は残ります。親が健在な家族構成では、遺留分を見込んだ遺言の設計や、生命保険の活用など、別の工夫が必要です。個別の状況に応じてご相談ください。
Q6. 生命保険金は、本当に兄弟に分けなくていいのですか?
受取人が指定されていれば、死亡保険金は受取人固有の財産であり、遺産分割協議の対象になりません。兄弟の同意や実印は不要です。また判例上、原則として遺留分や特別受益の計算にも含まれません(著しく不公平となる特段の事情がある場合を除く)。そもそも兄弟姉妹には遺留分自体がないため、二重の意味で確実な対策といえます。
「遺言+生命保険」で、渡したい人に確実に届ける
税理士法人井上事務所(柏市)では、公正証書遺言の作成サポートと併せて、生命保険の受取人確認・相続税シミュレーションまで一体でご提案しています。
- ご家族構成に応じた「誰に遺留分があるか」の確認
- ご家族関係と税務を踏まえた遺言内容のご提案
- 保険の受取人・非課税枠・2割加算まで含めた税額の見通し
「うちの場合、兄弟に遺留分はある?」という確認だけでも歓迎です。初回無料相談(60分・秘密厳守)でお答えします。
参考リンク(公的機関)
- e-Gov法令検索 民法(第1042条 遺留分の帰属及びその割合)
- 国税庁タックスアンサー No.4157 相続税額の2割加算
- 国税庁タックスアンサー No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金
※本記事の内容は2026年7月時点の法令に基づく一般的な解説です。実際の相続・遺言・保険の取り扱いは個別の状況により判断が異なるため、具体的な手続きの際は必ず専門家へご相談ください。

