遺言書は誰に相談すべき?税理士・司法書士・弁護士の違いと二次相続シミュレーション

【この記事でわかること】

  • 遺言書が「文章を整える作業」ではなく「配分の設計」である理由
  • 遺言書は誰に相談すべきか(税理士・司法書士・行政書士・弁護士の役割の違い)
  • 「税理士が遺言書を作るのは違法では?」という疑問への答え
  • 当事務所が必ず行う、二次相続シミュレーションと納税資金の確認
  • 財産の分け方では書けないものを残す「付言事項」の使い方
  • 2025年10月から始まった公正証書遺言のデジタル化で何が変わったか

先に結論から。遺言書は「文章を整える書類」ではなく「配分の設計図」です。そして配分は、そのままご家族が払う相続税額を決めます。ですから中身を決める段階で相談すべきは、税額を計算できる税理士。登記が必要になれば司法書士、すでに争いが起きているなら弁護士です。以下、実際にお受けした事例でご説明します。

「先生。あの子たち、このままだと喧嘩して、口を聞かなくなってしまうんじゃないでしょうか」

相続税の申告を終えて、少し落ち着かれた頃でした。お茶をお出しした席で、お母様がぽつりとそうおっしゃいました。

申告そのものは、無事に終わっていました。期限の3日前に「税額0円」で提出でき、長男さんも次男さんも納得されている。私の仕事としては、ひと区切りついたはずの段階です。

それでもお母様は、心配されていました。

1.「あの子たちが、口を聞かなくなるんじゃないか」

このご家族のことは、これまで二度ご紹介してきました。

お父様が亡くなり、相続人はお母様・長男さん・次男さんの3名。申告期限まで残り2ヶ月という段階で遺産分割の話し合いが止まり、このままでは630万円を現金で納めなければならない——という状況からのご相談でした。

→ 相続税の申告期限に間に合わない?未分割の危機ときょうだいの対立を乗り越えた解決事例

止まっていた原因は、お金ではありませんでした。次男さんが「兄と母だけで話が進んで、自分は置いてきぼりだった」と感じていらっしゃったこと。私が中立の立場で二次相続まで含めたロードマップをお示しし、次男さんはその場で同意されました。

→ 「ハンコ押せ」と言われた次男が、最後に同意した理由|相続の話し合いに第三者が入るということ

外から見れば、これで解決です。

けれどお母様は、あの一件をずっと引きずっていらっしゃいました。息子二人が同じ部屋で目を合わせなかったこと。長男さんが焦って「ハンコ押せ」と言ってしまったこと。次男さんが黙って腕を組んでいたこと。

「今回は先生がいてくださったから、話がまとまりました。でも、私がいなくなったときは、誰も間に入る人がいませんよね」

このお母様の心配は、正しいものでした。一次相続でもめかけたご家族は、二次相続でもう一度もめる可能性が高いからです。実際、当事務所に相続対策のご相談に来られる方の多くは、「一次相続でもめそうになった」か「税金が思ったより高かった」かのどちらかがきっかけです。

私はこうお答えしました。

「では、お母様のお気持ちを、形にして残しておきませんか。あのとき息子さんお二人に見ていただいたロードマップを、遺言書という形にするんです」

2. 遺言書は「文章」ではなく「配分の設計」です

遺言書と聞くと、多くの方が「書き方」や「様式」を思い浮かべます。どんな文言にするか、自筆でいいのか、公正証書にすべきか。

ですが、遺言書の中身は突き詰めると「誰に、何を、どれだけ渡すか」の一点に尽きます。そしてそれは、そのままご家族が払う相続税の金額を決める行為です。

言い方を変えると、様式としては完璧なのに、税額としては最悪という遺言書は、いくらでも作れてしまうのです。

  • ご自宅を別居のお子様に遺すと書いたために、小規模宅地等の特例が使えなくなる
  • 不動産ばかりを一人に集中させたために、その方が納税資金を用意できない
  • 良かれと思って配偶者に集中させたために、二次相続の負担が跳ね上がる

いずれも、文面だけを見れば何の問題もない遺言書です。問題が表に出るのは、遺言書が使われるとき——つまり、書いたご本人がもう説明できなくなってからです。

遺言書は誰に相談すべきか

「遺言書は誰に頼めばいいのか」というご質問をよくいただきます。どこが優れているという話ではなく、担当している領域がそもそも違います。

文案の作成 相続税の試算 相続登記 紛争の代理
行政書士 × × ×
司法書士 × ×
弁護士
税理士 × ×

※この表は「実務上、主にどの専門家が担当しているか」の目安です。弁護士は制度上、登記申請の代理や、国税局長への通知を経て税務も扱えますが、相続税の試算を日常業務としているのは税理士です。

税務相談や税額の計算は、税理士法によって税理士の業務と定められています。「その分け方にすると相続税がいくらになるか」を計算してお答えできるのは、税理士だけです。

「税理士が遺言書を作るのは違法では?」

ときどきいただくご質問です。結論から申し上げると、紛争になっていない遺言書について、公証人にお渡しする文案(原案)を税理士が作成することは、実務上ひろく行われています。当事務所も、争いが表面化していない案件に限ってお受けしています。

誤解が生まれやすいのは、「法律の書類だから弁護士の仕事ではないか」という感覚からだと思います。整理すると、こうなります。

  • 相続人の間で争いが起きており、代理人として交渉する → 弁護士の業務です。税理士にはできません
  • 不動産の名義変更(相続登記) → 司法書士の業務です
  • 公正証書としての遺言書を作成する → 公証人が行います。私たちが作るのは、その元になる文案です

当事務所では、遺言書の文案は事務所で作成し、それを公証人にお渡しする形で進めています。財産の評価も、税額の試算も、配分の設計も、すべて自分たちの手で行ったうえで文案に落とし込みます。そして登記が必要な場面では司法書士と、争いが表面化している場面では弁護士と連携します。

遺言書づくりは、本来どの専門家か一人で完結する仕事ではありません。ただ、中身を決める段階でいちばん役に立つのは数字です。文面は、中身が決まったあとで整えられます。順番が逆になると、書き直しになります。

3. 当事務所が必ずやること|二次相続シミュレーションと「払えるかどうか」

当事務所が遺言書のご相談をお受けするとき、必ず行うことが二つあります。

① 二次相続まで含めたシミュレーションを作る

今回の相続で税額がいくらになるかだけを見て分け方を決めると、次の相続で跳ね返ってきます。配偶者に集中させたために合計の負担が重くなるケースは、決してめずらしくありません。

→ 【関連記事】「母が全部相続すれば税金はかからない」は半分だけ正解|二次相続まで含めると405万円の差

このご家族の場合も、ご自宅を長男さんが取得する場合、次男さんが取得する場合、お二人の共有にする場合で、それぞれ税額を計算しました。お母様と同居されている長男さんがご自宅を取得すれば、小規模宅地等の特例で土地の評価額を大きく下げられます。別居の次男さんでは要件を満たすことが難しい。共有にすれば、将来の売却や建て替えで再びお二人の合意が必要になり、問題を次の世代に先送りすることになります。

数字を並べると、答えは自然に一つに絞られました。

② 「そのとき、払えるのか」まで見る

そしてもう一つ。ここが、私たちがいちばん大事にしている部分です。

税額を計算して終わりにはしません。相続が起きたその日に、実際にその現金が用意できるのかまで一緒に確認します。

ご自宅を相続する長男さんには、納税義務が生じます。不動産は分けられませんし、すぐには現金になりません。「相続はしたが、税金が払えない」——これは、遺言書があっても起こります。むしろ遺言書で配分が固定されているぶん、逃げ道がないこともあります。

ですから私たちは、こうお伝えします。

・そのときの納税額はおよそこのくらいです
・手元の預貯金と生命保険で、これだけまかなえます
・足りない場合は、この土地を売却すれば納税資金が確保できます

「もし足りなければ、これを売れば大丈夫です」——この一言があるかどうかで、ご家族の顔つきが変わります。売らずに済むならそれがいちばんですが、逃げ道が見えていることと、見えていないことでは、安心感がまったく違うのです。

税額を最小にすることが目的ではありません。残されたご家族が、慌てずに済むようにすることが目的です。

4. 内容は、もう決まっていました

ここで一つ、お伝えしておきたいことがあります。

このご家族の遺言書づくりには、「息子たちにどう説明するか」という工程がありませんでした。

長男さんがご自宅を、次男さんがそれに見合う預貯金を——この配分は、一次相続の遺産分割協議の席で、私からお二人に直接ご説明しています。次男さんは、その場で「その内容で同意します」とおっしゃいました。

つまり遺言書は、新しい提案ではありません。あのとき三人が同じ部屋で共有した合意を、お母様のお名前で確定させる作業でした。

これは、実は珍しいことです。多くのご家庭では、遺言書は本人だけで作られ、内容が知られるのは相続が起きたあとです。そして「知らないうちに決められていた」という受け止め方が、新たな不信を生みます。理由の書かれていない遺言書は、あの日の『ハンコ押せ』と同じ形をしているのです。

このご家族の場合、順番が逆でした。先に全員が納得し、あとから文書にした。だからこそ、この遺言書は開けられたときに争いの種にならないと、私は考えています。

5. 付言事項|「財産よりも、絆を守ってほしい」

配分が固まった段階で、私はお母様にひとつお願いをしました。

「最後に、ご自身のお言葉を書き添えていただけませんか」

遺言書には、財産の分け方とは別に付言事項という部分を設けることができます。法的な効力はありません。ただ、「なぜこの分け方にしたのか」を、遺言者ご自身の言葉で残せる唯一の場所です。

お母様は、少し考えてから、こんな趣旨のことを書かれました。

これはお父さんと二人で築いてきた財産です。でも私は、財産よりも、あなたたち兄弟とその家族の絆を、いちばんに守ってほしいと思っています。

書き終えたあと、お母様は確かめるようにおっしゃいました。

「これ、二人に読んでもらえるんですよね」

私たちが大切にしているのは、財産だけでなく、ご家族の絆と、亡くなった方の想いまで引き継いでいただくことです。それは理念として掲げているというより、この付言事項のような、実務のなかの一行に宿るものだと思っています。

数字で決められることは、数字で決める。数字では決められないことは、ご本人の言葉で残す。遺言書は、その両方を一枚に収められる、唯一の書類です。

6. 公証役場への道で、お母様が話し続けたこと

作成の日。私はお母様をお迎えして、公証役場へ向かいました。

慣れない場所へ出かけるというだけで、お母様には負担だったと思います。車の中で、お母様はずっと話していらっしゃいました。

長男さんが子どもの頃、次男さんの面倒をよく見ていたこと。二人で同じ部活に入って、毎日一緒に帰ってきたこと。次男さんが熱を出した夜、長男さんが心配して隣の部屋から何度も様子を見に来たこと。

ご主人が元気だった頃の、家族四人の話でした。

途中で、こうもおっしゃいました。

「あんなに仲が良かったんです。財産のことなんかで、争うようなことは絶対にしてほしくないんです」

私は、ほとんど相槌だけを打っていました。

あれは、私に聞かせるための話ではなかったのだと思います。ご自分の心配を打ち消すために、昔の光景を並べていらっしゃった。兄弟仲が良かった証拠を一つずつ確かめながら、大丈夫だと自分に言い聞かせるように。

それだけ、心配でいっぱいだったのでしょう。

7. 公証役場にて|お母様が漏らした一言

待合室で、お母様はずっと膝の上で手を組んでいらっしゃいました。

「先生、私、こういうところは初めてで……」

背筋を伸ばして座ってはいるのですが、明らかに緊張されている。私は「大丈夫ですよ、中身はもう全部決まっていますから」とだけお伝えしました。実際、この日にお二人の息子さんの取り分でもめる余地は、もうどこにも残っていませんでした。

証人を2名立て、公証人が内容を読み上げ、お母様が署名される。手続きそのものは、あっけないほど短い時間で終わりました。

役場を出るとき、お母様の表情は、来たときとまるで別人でした。肩の力が抜けて、少し笑っていらっしゃった。そして、こうおっしゃいました。

「これで息子たちが、お父さんの残した財産を兄弟で喧嘩しないで引き継いでくれます。本当に感謝でしかないです」

あの言葉は、今でも忘れません。

私たちの仕事は、相続税の計算です。数字を扱う仕事です。それでも、あの日お母様が受け取られたものは、節税額ではありませんでした。息子二人が、また昔のように話せるという見通しでした。

道中であれだけ昔話をされていた理由が、そのときようやく分かった気がしました。

8. 2025年10月から、公正証書遺言はデジタルになりました

最後に、制度の話を少しだけ。

2025年10月1日から、公正証書の作成手続きがデジタル化されました。公正証書遺言も対象です。主な変更点は次のとおりです。

  • 電子データでの作成・保管が原則に——遺言書は電子データとして作成・保存されます
  • 署名押印に代えて電子署名が可能に——遺言者と公証人が電子的に署名します
  • ウェブ会議によるリモート方式が新設——公証人と離れた場所からでも作成できるようになりました
  • 正本・謄本の受け取り方法が選べる——書面のほか、メールやUSBメモリ等での受け取りが可能です

従来どおり公証役場に出向く対面方式も、これまでと変わらず選べます。また、公証人が内容を確認し、本人の意思を確かめるという手続きの根幹は、デジタル化されても変わりません。

ご注意ください。電子データでの作成やウェブ会議の利用は、法務大臣の指定を受けた公証人(指定公証人)の役場から順次始まる仕組みです。全国の公証役場で今すぐ使えるわけではありませんので、ご希望の場合は事前にお確かめください。

外出が難しい方、ご遠方にお住まいの方にとっては、大きな前進だと思います。「体調が不安で役場まで行けない」というお声は、実際に少なくありませんでした。

ただ、正直に申し上げると——あの車中の30分は、画面越しには生まれなかったかもしれない、とも思うのです。お母様が昔話を並べながら、ご自分の心配と折り合いをつけていったあの時間。あれも、遺言書づくりの一部でした。

どちらが良いという話ではありません。選べるようになったことに意味があります。ご本人の状況に合わせてお選びいただければと思います。

9. よくある質問(FAQ)

Q. 遺言書は自分で書いてはいけないのですか?
A. 自筆証書遺言も有効な遺言です。
費用がかからず、いつでも書けるという利点があります。ただし形式の不備で無効になる例が後を絶たず、また内容が税務上不利になっていても誰も指摘してくれません。財産にご自宅などの不動産が含まれる場合は、公正証書遺言をお勧めしています。
Q. 税理士が遺言書を作るのは違法ではありませんか?
A. 紛争になっていない遺言書について、公証人にお渡しする文案(原案)を税理士が作成することは、実務上ひろく行われています。
当事務所では文案を作成し、それを公証人にお渡しする形で進めています。ただし、相続人の間ですでに争いが生じており、代理人として交渉が必要な場合は弁護士の業務です。不動産の名義変更は司法書士が担当します。
Q. 遺言書を作るのに、税理士に依頼するメリットは何ですか?
A. 「その分け方にすると相続税がいくらになるか」、そして「そのとき本当に払えるのか」を計算できる点です。
遺言書の中身は配分の設計であり、配分は税額を決めます。当事務所では二次相続まで含めた試算と、納税資金が確保できるかの確認を必ず行い、足りない場合は不動産の売却も含めた具体的な選択肢をお示しします。
Q. 証人は誰に頼めばよいですか?
A. 公正証書遺言には証人が2名必要です。
ただし、推定相続人やその配偶者・直系血族、受遺者などは証人になれません。ご家族には頼めないということです。当事務所でお引き受けすることもできますので、ご相談ください。
Q. 費用はどのくらいかかりますか?
A. 着手前にお見積りをお出しします。
公証人の手数料は、遺産の額や渡す相手の人数によって決まります。デジタル化にあわせて手数料の見直しも行われましたので、具体的な金額は事前にお調べしてご案内します。当事務所の報酬とあわせてお見積りをお出しし、そのあとで費用が増えることはありません。
Q. 一度作った遺言書は、あとから変えられますか?
A. 何度でも書き換えられます。
新しい遺言書を作れば、内容が抵触する部分については前のものが効力を失います。ご家族の状況や財産は変わりますから、数年ごとに見直していただくのが理想です。
Q. 子どもに内緒で作ることはできますか?
A. 手続き上は可能です。
ただし今回のケースのように、内容を先に共有しておく方が、結果的にご家族は穏やかに収まります。遺言書が「知らないうちに決められていたもの」として現れると、それ自体が不信の種になりかねません。

10. まとめ|遺言書は、争わせないための設計図です

  • 遺言書の中身は「配分の設計」であり、配分はそのまま相続税額を決める
  • 様式が完璧でも税額が最悪という遺言書は作れてしまう。中身を決める段階から数字が要る
  • 「その分け方だと税額はいくらか」を計算できるのは税理士。登記は司法書士、紛争の代理は弁護士
  • 税額の試算だけでなく、そのとき納税資金が用意できるかまで確認する。足りなければ売却も含めて選択肢を示す
  • 数字で決められないことは、付言事項にご本人の言葉で残す
  • 内容を生前に家族と共有しておくと、遺言書は争いの種ではなく約束になる
  • 2025年10月から公正証書遺言はデジタル化され、電子署名やウェブ会議での作成も選べる

遺言書は、亡くなったあとに読まれる書類です。ですが本当に効いてくるのは、それを作る過程で、ご本人とご家族が同じ景色を見られたかどうかだと、私たちは考えています。

あのお母様が公証役場を出るときに見せられた表情を、私はこれからも忘れないと思います。

遺言書の作成をお考えの方へ

「子どもたちに争ってほしくない」「自宅をどう遺せばいいか分からない」「一次相続でもめかけたので、次が心配」——そんなときは、一度ご相談ください。ご家族の状況をお伺いし、二次相続まで含めた税額の試算と、そのときに納税資金が用意できるかの確認をしたうえで、遺言書の中身を一緒に組み立てます。

税理士法人井上事務所(千葉県柏市根戸401番地8/JR北柏駅北口から徒歩約5分)は、相続を専門とする税理士事務所です。相続税申告は年間60件以上。初回相談無料、電話相談・東葛エリアへの出張相談も無料で承っています。二次相続シミュレーションも無料でご提供しています。

※本記事は当事務所で対応した複数のご相談案件をもとに構成した複合的な事例であり、2026年8月現在の法令等にもとづく一般的な情報提供です。個別の税務判断を行うものではありません。実際のご判断にあたっては税理士にご確認ください。